昭和世代のつぶやきメンタルヘルス

「匿名」という卑劣な凶器が横行するネット社会で生きるには

昭和世代のつぶやき

あまりに残念で、あまりに悔しい訃報でした。
 
 『こんな世の中で生きていくしかないなら』(朝日新聞出版)
故・りゅうちぇるさんが残した唯一の書籍です。

下記は帯のサブタイトルにも使われている一文。
 『諦める、割り切る、逃げる、戦わない。
  そして、期待しないこと。
  僕はこの5つの武器を身につけた。』


人と争うことをせずに生きていくための5つの武器。
これを身につけてもなお生きることができないほどに、この世の中は絶望的だったのでしょうか。

繊細でとことん人に優しかったりゅうちぇるさんは、人を傷つけることを何よりも恐れていたように思います。
そんな人が、顔もわからない匿名の無責任な誹謗中傷で傷つけられていたのだとしたら。
私は当時のネットのカキコミを見ていないし、自死の原因は明らかではないので、SNSでの誹謗中傷もその一端だったと「仮定」しての話をします。

まず誰もが知っておかなければいけないことは、「匿名」という最も卑怯な凶器がある限り、ネットはまともな世界ではないということ。

少し話は逸れますが、長年編集の仕事に関わってきた私は、雑誌などの印刷物を「写植」から作っていた時代をかろうじて経験しています。
文字フォント、大きさ、字間等を手描きで指定した原稿を写植屋さんに持ち込んで「写植文字」を作ってもらい、写真、イラスト、ロゴ等を切り張りし、罫線やトンボも手描きで版下を作っていた時代。
それほどの手間ひまをかけるので、その内容は「原稿」の段階から校了に至るまで、複数の人間によって繰り返し精査されます。そして一度出版された新聞・雑誌・書籍は二度と訂正がきかないので、それにともなう編集者の「責任」は果てしなく重い。

何が言いたいのかというと、そんな紙媒体でのストイックな出版を生業としてきた私にとって、根拠がない情報の垂れ流しや、無責任な匿名のカキコミが横行している今のネット社会は、いまだに信じがたい世界なのです。
ネットを通せば、誰もが自由に発信できる、誰もが自由に書ける時代。
ユーチューバーやブロガーが職業として成り立っている時代。

決してネット社会を否定しているわけではありません。
情報ツールとしてこれほど便利なものはなく、私も日々活用しまくっています。というか、そこでもメシの種である原稿を書いているし、楽しいYouTubeで癒されたり、音楽配信を聴いたりもしています。
けれど一方では相変わらず、書籍、雑誌等は紙媒体を購入し、ニュースの時間はテレビをつけっぱなし。バラエティも見るし、ブログでドラマ評なんか書いているほどのTVドラマオタクだったりもするわけで。

私が今や時代遅れと言われる新聞、本、雑誌、テレビ等の情報ツールを手放さないのは、物事を客観的に見るために必須だからです。
視野を広く持つと、誹謗中傷や炎上を繰り返しているSNSの世界が、どんなに狭く閉じられた社会であるかがわかります。

そこで何が得られるのか。
なぜその世界にわざわざ身をおくのか。
なぜ他の世界に目を向けないのか。

ネットにどっぷりと遣っている自覚のある人(特にスマホと共に育ってきた10~20代のワカモノたち)は、一度スマホを離れ、まともな人が責任をもって発信をしている場所を探してみてほしい。
もちろんまともな発信はネットの中にもあるのだから、離れたところからそれをしっかりと見極めてほしいと、切に願います。

そして、絶対に忘れてはいけないこと。
 全うな人間は(ネットにいる人も含めて)現実の世界の中に生きているということ。
 本当に大切なものはネットの中ではなく、現実の世界の中にあるということ。

冒頭で紹介したりゅうちぇるさんが残した本について。
キラキラで明るいキャラを全面に出した本の出版の話はすべて断ってきた中で、この本の編集者だけが唯一自分の内面を書くことを提案してくれたのだそうです。
これこそが、信用するに足る、まともな世界と言えるのでは。

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