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「星野道夫と見た風景」 星野道夫 星野直子著

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アラスカの大自然、そこで生きる人々や動物を愛し、自らもアラスカに生きた写真家、星野道夫氏。
「星野道夫と見た風景」は、妻の直子夫人が道夫氏と出会い、熊に襲われるという衝撃の事故死までの珠玉の5年半を追想する記録。
撮影同行時の作品を中心に110余点の写真を掲載しています。

直子夫人は1969年東京で生まれ、短大を卒業。知り合いの紹介で22歳の時に17歳年上の星野氏と出会い結婚。翌年長男を出産しています。
と書けばどこにでもある夫婦だが、その相手はすでにアラスカを基盤に活躍中の世界的写真家・ジャーナリスト。
それまで日本を出たこともなかったお嬢さまが、いきなり最果ての地アラスカという極北の未知の世界で暮らし、あろうことか子育てを始めるのである。「言葉が通じない」「知り合いがいない」どころの話ではない。

アラスカの新居となる小屋で開いた結婚の報告パーティでの逸話がおもしろい。
『寒いことが人を暖めるんだ』『離れていることが、人と人を近づけるんだ』とアドバイスする道夫氏の友人の言葉にニコっと笑う直子夫人。そんな妻を見て『彼女はきっとアラスカでやっていけるだろう。そんな気がした』
とは、星野道夫氏の言葉。
いやいやいや、言葉わかんないし。普通無理だし。

何もかもが想像を絶する生活であっただろうに、直子夫人がそれを語る文章は穏やかで淡々としている。
目の前でハンターが獲ったばかりのカリブーを解体し、心臓を煮込む。それを口にして

さっきまで生きていた「生命」が、食べることで自分の中に入ってきて、つながっていくーアラスカに昔から生きてきた人たちの生活に、ちょっとだけ近づいた気がしました


と語る直子夫人。
いやいやいや、物おじしないにもほどがある。

この直子夫人の計り知れない強さはどこからくるのか。その答えのひとつが垣間見えるエピソードが書かれている。
直子夫人が長男を懐妊して一時流産の危険があった時、道夫氏が義母である直子夫人の母に電話をしているのだ。
その時義母は『流産をする時は、どうやってもしてしまうものよ。自然のことなんだから、それにまかせなさい』と言ったのだそう。
すごい。直子夫人の母もまた計り知れない強い人であった。

直子夫人は夫の死後、長男と共にアラスカを行き来し、世界の遺産である夫が残した記録を守り続けている。

星野道夫氏の知力と体力、そして類まれな行動力はやはり特別だ。特に女性が簡単に真似できるものではない。
けれど、同世代であろう直子夫人の生き方、言葉は胸にしみる。
もちろん、同じように生きることはないだろうけれど。
これからを生きていく娘たちにはもちろん、特に風月世代(=50代昭和世代)の女性に超おススメの一冊です。

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