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「くもをさがす」西加奈子 著 ~死と向き合い、自分と向き合う

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はじめに、この本を紹介してくださったOさんに感謝します。SNS(FB)で繋がっている方なのですが、私の「乳がんサバイバー」の記事を読んで個人メールで勧めて下さいました。
何より「気にかけてくれている」ことがとても嬉しく、力になりました。
ありがとうございました。

「くもをさがす」は、カナダで乳がんを患い、カナダで治療した西加奈子さんのノンフィクションエッセイ。
初版は2023年4月に発行され、またたく間に20万部突破のベストセラーとなりました。

忘れもしない安倍首相が撃たれた2022年7月7日は、私の1回目の乳がん摘出の手術の日。著書によるとこの頃、西加奈子さんは治療を終えた時期だったようです。
風月と西加奈子さん。同じ時期に同じ乳がんという病気の治療を受けていたとは言え、日本とカナダ、アラカンとアラフィフ、病状や進行状況、予後も違うので、当然治療方法も違う。育ってきた環境、家族構成も全く違います。
にもかかわらず、一度は死と向き合い、その先に行きついた思いは同じだと感じました。

乳がんに限らず、人は病気になると他人と比べます。
特にガマン強い日本人は「他の人の苦しみに比べたら私はまだマシなのだから」と耐えることを美徳とする人が多いのでは。
というか、私はまさにこの心境に陥っていました。
両側性乳がんではあったけれど、片側は早期発見・浸潤なしのステージ0、片側は浸潤はしていたけれど同じく早期発見でステージⅠ。いずれも温存手術で放射線治療のみ、抗がん剤治療なし。
幸運だよね、つらいなんて言ったらバチがあたる。
ともすれば早期発見であったことに罪悪感すら感じ、あげくの果てに「今どき2人に1人はがんになっているのだから、みんなしんどいのだから…」…と、ここまで来て、ふと我に返りました。だから、何だ?
私は命拾いをしたのはこれが初めてではなく、そもそも劇症型潰瘍性大腸炎という難病を抱えている。子宮内膜症、卵巣嚢腫もある。
乳がんも初期治療は無事に終わったものの、先月の検査で胆のうとリンパ節に腫瘍が見つかり、いずれも生検ができない場所なので経過観察をしている。いずれは私も抗がん剤治療を受けることになる可能性が高い。

人それぞれ、十人十色の病状を人と比べて何になる?
怖いものは怖い、しんどいものはしんどいのだ。

けれど私は昔から、泣き言をいうこと、人に頼ることが苦手でした。
周りからは強い人間だと思われていて、それゆえの孤独感と「自分はそんなに強い人間ではないのになあ」という違和感を抱えて生きてきた人間。
そしていざ自分の死というものに向き合った時に、泣き言が言えるようになったか、人に頼ることができるようになったか。
否、これは相変わらず「苦手」です(^^;。
もちろん頼るべき時には頼っているけれど、そのやり方はほんとに不器用きわまりなく。
仕方がない、半世紀の間変わらなかったこの可愛くない性格が簡単に変わるはずもない。これが私なのだから。
私は、ギリギリまで自分で選択して、自分の足で立っていたい。
ただひとつだけ分かったことは、そんな私を理解して一定の距離を置いて見守ってくれている人たちは、手を伸ばせばいつでもしっかりと手を握り返してくれるということ。
そんな時の人の手の温かさほど身に染みるものはありません。

私が本当に幸運なのは、つらいと言うことができる相手がいてくれること、支えてくれる人たちがいてくれること。
娘たち、友人、仲間たち、そして医療関係者の皆さんには、どれほど感謝しても足りず、これ以上望むことはありません。

西加奈子さんも、病気を経て、死と向き合い、自分と向き合い、同じような思いにたどりついたのではないかと。
美しい文章を通して、その思いに触れてみてください。闘病中の人もそうでない人も、自分の生き方に何かしら得るものがある一冊だと思います。


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