風月は、最近まで「グルメって不幸かも」と思っていた。
アルバイトで食いつないでいた学生時代は、学食のおばちゃんが「素うどん」にこっそり入れてくれた卵が本当に美味しかったし、駅前の立ち食いそば屋や牛丼屋がごちそうだった。
ところが大学を卒業して銀行に就職した当時、世の中は空前のバブル景気。
上司や先輩が部下や後輩におごるのは当たり前で、入行したての新人の頃は「高級フレンチのフルコース」や「老舗の料亭のフグ料理」をごちそうになったものである。
銀行内に安くて美味しい社員食堂があるにもかかわらず、ランチは丸の内界隈の評判のお店に連れだって出かけていた。
そしてある日、以前よく入っていた立ち食いそば屋に立ち寄った時、その味に驚愕してしまったのである。
それは「しょうゆ」の味しかしなかった。
年末は日本橋の名店のお蕎麦さんで年越しそばを食べるのが慣習となっていて、いつの間にかその味に慣れてしまっていたのだ。
美味しいものを経験すればするほど、ビンボー生活を送っていた頃美味しいと思っていたものが、食べられなくなっていく。
これって、どーなの?!
「グルメって不幸なんじゃない?!」
そんなナゾの焦りを感じていた風月は、それ以来収入が安定してからも、ちょっと贅沢な料理を心から楽しむことができないでいたのである。
けど、それも今となっては杞憂に終わりそうだ。
日本食もイタリアンもフレンチも中華も、「だいたいこんな感じだよね」とわかってしまうと、新しいお店ができてもさほど興味がわかなくなった。
50代も後半にさしかかると、身体が欲するものは、素材の味を生かした素朴な料理。
焼いただけの肉や魚とか、ふかしただけの野菜とか。
そして、大好きなチョコレート。
もともと「ゴディバ」や「ピエールマルコリーニ」といった高級チョコレートは、高級すぎて食べた気がしなかったのだが(ただのビンボー性ともいう)、少し前までは、なんとか手の届くリンツの「リンドール」にハマっていたのである。
それも病気をしてからはなんとなく食傷気味になり、最近たどり着いたのが、ロッテの「Ghana」。
そう、昔からある、あのシンプルな赤い板チョコである。
目からウロコ。これって、こんなに美味しかったっけ?


今は「リンドール」1個のお値段で「Ghana」1枚が楽しめることに幸せを感じている。
お蕎麦は、当時と同じ立ち食いそばは美味しいとは思えないかもしれないが、最近はスーパーで売っているお蕎麦も十分美味しい。
カレーやラーメンも、こだわりのお店はもちろん美味しいと思うけれど、インスタントでもそれなりの美味しさがある。
特に「日清カップヌードル」や、スキー場の販売機で買って食べた「サッポロ一番」は、時々無性に食べたくなるのである。

ロッテさん、日清さん、サンヨー食品さん、様々な新製品を開発しても、時代は変わっても、どうか元祖「昭和の味」だけは死守してくださいね<(_ _)>。
大丈夫。今のところ、贅沢な味しか美味しいと思えない「不幸なグルメ」にはならずにすんでいる。
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